猫をなでるたび、思うことがある。猫をなでることで幸せになるのは、猫なのか、人間なのか。なあ猫よ、教えてくれ。なぜ人は人を苦しめるのか。なぜ人は人を想うのか。なぜ人は独りになったときに誰も助けてくれないのか。なぜそんな世界でも幸福が存在しているのか。なぜこの世界には目も当てられないほど醜い光景と、息をのむほど美しい景色が混在しているのか。それでもなおなぜ人は、猫をなでることができるのか。そう訊くと猫は、ニャーオとか細くかわいい声で鳴き、丸まってすやすやと眠ってしまった。

縁側に座り、新緑が映え、夏草の匂いが鼻を突き、扇風機が哀しく音をたて、それでも暑すぎない暑さが心地よく、時が経ち、茜色に染まり、カラスが鳴き、カエルが鳴き、猫は眠り、ああ、また夏がやってくるんだな。ああ、また記憶を一つ重ねていくんだな。

今でも夢に見る。僕と君は途轍もなく未来的な真冬の大都市にいて、ビルたちの明かりがとうに消えてしまった真夜中、奇妙なカタチをした100階建てのビルの最上階から眺めるその大都会の景色には、エジプトのピラミッドのような形をした巨大な建造物が唯一ダイヤモンドのような輝きを放っている。その光景には人っ子一人おらず、ただ、僕と君だけ、大都会の中の二人だけの空間だった。何度も同じ夢を見る。なぜか、懐かしさを感じる夢だった。

 

 

夏の音がする。あの時の、匂いがする。

なあ猫よ、教えてくれ。猫をなでることで幸せになるのは、お前なのか、それとも俺なのか。