鴉の詩

ふと思った。誰もが羨むようなこの上ない幸福を経験した者もいれば、一生を不幸な環境の中で終えた者もいる。ああ、これが世界なんだとしたら、僕はこの世界にはいたくない。確かにそう思うのにこの世界に居続けるのは、まだ存在するかもしれない至上の幸福が起こることを密かに願っているという傲慢なのだろうか。

ふと思った。結局人は誰も他人のことなんか気にしていない。他人の幸福を文字通り自分の幸福のように感じられるというのはただの綺麗事で、そんなことができる人はどこにもいない。それでも僕は、君だけに関しては、そんなことができる人になりたかった。これもただの、傲慢なのだろうか。

大切な人を想う言葉は何万回も言われてきた。大切な人を失う悲しみも何万人が唄ってきた。でも、僕が君を想うことも、僕が君を失う悲しみも、人類史上これが初めてなんだ────なんてこと、言えるくらいお気楽な頭で生きたかったな。どっかの誰かさんがロックで歌う二人だけの愛とかいうやつを、感じられるような人生でありたかったな。実際は、夏の匂いも、あの時の声も、死にたいと思う君も、僕の心をずたずたにするだけ。言葉は、どう足掻いても人間の感情を模倣できない。神様、ならばせめて、どこからでも彼女に届く音波を僕に授けてください。

早朝の静寂の中、響く鴉の鳴き声。