ひとつまみの声

ああ、これは今書いとかないといけないな、と思った。

言葉は人間と同じだから、ちょっと気を逸らしただけでどこかに去ってしまう。言葉は人間と同じだから、大切に扱う必要がある。言葉は宝物だから、どこかに仕舞う必要がある。だから、言葉を伝える空気の振動は恐ろしいほど不安定で、僕は苦手だ。この世界を形作っている11次元の振動の中で、君の声も、僕の声も、ただの3次元の震えに過ぎなかった。

それは君が電話越しで教えてくれた星空のこと。余りにも綺麗な星空を見上げたとき、どこにもいなかった僕がまだこの世界の何処かにいるような気がして、泣いた。その涙は無限に広がる星空ではなくて、有限な君の声のために消費されたのだろう。そのためなら、僕の涙は無限にあるから。

言葉は文字に起こすことができる。言葉は紙に記録することができる。でも空気の振動は保存できない。それを何度嘆いたところで、僕は何度も思い出す。君のひとつまみの声が、川の中で漂う一粒の砂金のように今にも消え入りそうな姿をしていたこと。