季譚

四季は、それぞれ違った匂いがする。そのどれもが好きで、季節の移り変わりにふと風の匂いが変わったのに気づくと、毎年新鮮で凄く嬉しい気持ちになる。そしてその度に、どこか遠くを見つめるあなたの横顔を思い出す。

春の包み込まれるような暖かさとぬるい陽射しの中で、お花見に行こう。桜の色と匂いが街を彩って生命が息づくあの気配を感じよう。夏のギラギラした太陽と青空の下、蒸し返るような草の匂いに囲まれてかき氷を食べよう。夜には屋台の焼きそばでも食べながら、誰もいない穴場で花火を見上げるんだ。ちゃんと虫除けをしてね。秋には不意に香る金木犀を感じながら、海に行こう。夏の人々を楽しませて少し落ち着いた海には、サーファーの姿がちらほら見える。ひとけのない砂浜に座ってそれらをぼんやりと眺めるんだ。冬にはイルミネーションで輝く都会に買い物へ出かけよう。でっかいアウトレットをまわったあとは手を繋いで静かに光の中を歩くんだ。ちゃんと四季を過ごしたいんだ、あなたと。だからまだ、行かないでください。せめて、1周でも良いので、私と春夏秋冬を過ごしてください。

でもあなたはもう、あなたがずっと見つめていた遠くの場所へ行ってしまったみたいだ。