本とチョコレート

歳をとるたび、消したい過去も多くなっていった。

寒い、寒い。と何度吐き捨てても、気温は上がるはずもなく、僕の醜い過去は変わるはずもなく、時間は止まるはずもなく。窓から射し込む眩い朝陽とひんやりした澄んだ空気と高く蒼い空に囲まれ、チョコレートでも食べたいな、と思う孤独な真夜中だった。僕の真夜中は、いつだって「無」であり続ける。そこに流れ入る馨しい音楽を嗅ぎながら、その音楽の粒は一つ一つ、纏まりながら僕の鼻を通って脳の中をゆらゆらと漂う。

 

聞こえてたら返事をしてくれ。寒い。冱い。

いつまでも待てるわけじゃない。もうずっと待ってきたんだ。物理的な寒さにも、君のその偽の温かさにも、もう慣れたよ。もう飽きたよ。

 

冬のチョコレートはどれも硬い。僕はその硬さが好きだった。味がないようで、口の中で溶けるほど味が出てくる、そんなチョコレートが好きだった。日が沈み辺りを「無」で包み込んだ真夜中にいる僕は、まるで味が染み出てきたチョコレートのように柔らかく、溶けていた。

 

朝陽が昇ったらその本を置いてチョコレートを食べよう、そう僕は君に提案した。